大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和63年(行ツ)128号 判決 1988年10月27日

北海道網走市北六条西七丁目六番地

上告人

網走観光株式会社

右代表者代表取締役

野田明

北海道網走市南六条東五丁目九番地

被上告人

網走税務署長

逢坂邦好

右指定代理人

植田和男

右当事者間の札幌高等裁判所昭和六一年(行コ)第五号法人税重加算税賦課決定処分取消請求事件について、同裁判所が昭和六三年四月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の審理上の措置及び認定判断は、記録にあらわれた本件訴訟の経過及び原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、また右判断は所論引用の判例に違反するものではなく、原判決に所論の違法はない。所論違憲の主張は、その実質において単なる法令違背の主張にすぎないところ、原判決の法令違背がないことは、右に述べたとおりである。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

(昭和六三年(行ツ)第一二八号 上告人 網走観光株式会社)

上告人の上告理由

第一点 原判決の判断は判決に影響をおよぼすことが明らかな採証法則の違背がある。

一 すなわち、本件のような税務署長がした処分の取消を求める訴訟には、異議の申立等不服申立前提主義が採用されているが、かかる制度は取消を求める当事者となる国民に対し、憲法三二条に規定する裁判を受ける権利をはく奪し、同一四条の平等原則にも反する。

二 そもそも、司法権は当事者間に存する具体的な権利義務の紛争について、法を適用して紛争を解決する国家作用をいうとされており、本件のような課税処分の取消を求める紛争は、処分を受けた国民と、処分をした当該税務署長間の紛争であるから、司法権の作用として解決されなければならない。

したがつて、控訴人の唯一の証拠ともなる、税務報告書の文書提出命令の申立、証人野田ハチエの証拠申出をことごとく却下したことは、公正な裁判を受ける権利をはく奪したことになり、武器対等の大原則に反することになる。

三 しかし、本件訴訟を提起するには、当該税務署長に対する異議申立て、国税不服審判所長に対する審査請求を経なければならない。これでは、処分を争う国民はあらかじめその不服内容を相手方に申告して了知され、右手続きを経由する間は、相手方である当該行政機関は専らその不服申立て内容に対する反対証拠を協力な機能を駆使して、十分に自己の判断を維持しうるだけ補強できるにかかわらず、処分を争う国民の側はこの間何ら手段をとることができない立場に立たされる。そうして、異議申立、審査請求を経た段階では、両者間においては訴訟当事者としての圧倒的な地位の優劣を生じ、その後裁判所に出訴しうる道が開かれているとしても、到底対等な当事者として訴訟を追行しうる状態ではなくなつてしまつている。

四 これでは、本来司法作用として、両当事者対等の立場で争うべき事柄が、不服申立て前提主義の結果一方の圧倒的優位の立場を形成された後に名目的に権利保証がなされるというにすぎず、実質的に国民の裁判を受ける権利を奪つているに等しい。また、同じく行政機関の処分を争う国民が、不服申立を経由するか否か自由に選択できる制度の処分を受けたか、本件のように不服申立が前置される処分をうけたかによつてその地位が差別されることになる。

この意味でも、不服申立て前置が強制されるのは憲法違反である。

五 憲法に拘束される裁判所が、このような違憲制度を不問に付し、これを前提としてなした判決は憲法に違背したものである。

第二点 理由不備、審理不尽の違法

一 第一点でも述べたとおり、不服申立段階で収集された証拠及びなされた判断は、公正な第三者によるものではなく、したがつてその取捨選択及び価値評価には特別の考慮を払う必要がある。

一方取消を求める国民の側の訴訟段階における地位は圧倒的に弱く、その点を十分に考慮して審理においては通常の経験則上の判断のみで証拠の取捨その他の判断をしてはならない。

二 原判決はこの点何ら考慮を払わないで、第一審判決において特別の理由を示さず挙げた行政機関の一方的証拠をそのまま採り入れ、一方的訴訟当事者の地位として弱い上告人側の証拠である文書提出命令の申立、証人野田ハチエの証拠の申出をことごとく却下し、網走税務署職員だつた証人金泉吉明の指導で一二〇〇万円であつた賃料を六〇〇万円に訂正させて、証人嵯峨井隆雄が六〇〇万円の賃貸借契約書を作成し、証人増田生人が税務申告書を提出したもので、上告人が事実の仮装、隠ぺいをしたことがなく、一方被上告人側については、一審、二審の証人嵯峨井隆雄、二審での証人金泉吉明の各証人の偽証証言を採り入れ判決に至つたもので、証拠の選択についての理由不備の違法がある。

本件は、事実の仮装、隠ぺいという上告人自身の認識等が問題となる事実にかかわらず、原判決は右のとおり十分な審理を尽くさず一方的な証拠に基づく事実認定をしているもので、審理不尽の違法がある。

第三点 原判決には最高裁判所の判例に相反する判断をした違法がある。

すなわち、第二点でも述べたとおり、本件は、事実の仮装、隠ぺいの認定にあるが原判決は「・・・・・・・・・譲渡益を申告しなかつたのは野田において、赤字経営が続いていた原告についてはことさら右譲渡益を申告する必要がないものと判断したことによるものと推認するのが相当であるが、これは動機にすぎず、譲渡益が生じていることを認識しながらこれを申告しないのは国税通則法六八条二項の課税標準等の基礎となるべき事実を隠ぺいしたことに該当するというべきである。」と認定した。

しかしながら、最高裁判所昭和五二年一月二五日判決及び同事件の原審判決によれば「ことさらに」過少にした内容虚偽の納税申告を提出した場合、いわゆる過少申告行為は含まれるが、単なる不申告行為は含まれないこととなるとされている。

すなわち、過少申告加算税が国税通則法六五条に規定されているのであるから、結果として過少申告内容となつているものを、単純に重加算税の適用事例とすることは当を得た態度とはいえないのであつて、加算税全体の立法趣旨を勘案すれば、同法六八条の適用は例外的であることが、十分認識されなければならないはずである。

以上のことからも原判決は最高裁判所の判例に相反する違法がある。

以上いずれの論点よりも原判決は違法であり破棄されるべきである。

以上

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